古い身体から新しい身体へ
行く川の流れは絶えずして、しかも元の水に非ず。
方丈記を書いた鴨長明によれば、淀みに浮かぶ泡沫は消えたり集まったりで、止まることはないらしい。諸行無常。つまり変化が無いように見えても、常に同じ状態ではない。いや、常に同じ状態のものなんて一切ない。と言う訳だ。
「なるほど・・・」と思う。
このことは理屈より、人生を重ねるごとで鮮明になるようだ。事実、私自身、アトピーだった頃の身体と今の身体を比較すると全く違うことに気付く。それは「痒みが消えた」レベルの話ではなく全く「別物」。まるで身体を構成している60兆個の細胞が全部入れ替わったかのようだ。
これは、奇跡でも何でもない。
十字架の上で殺されたイエス様が3日後に復活するような話ではなく、今、ごくごく普通に起こっている現実で、事実、今、まさにこの瞬間にも起こっている変化と思える。
「モノが栄えて心が滅ぶ。」
確か、禅僧の言葉だったと思うが、世の中が豊かになってモノが進化する一方、人はラクな方へラクな方へ気持ちが傾くものなのかもしれない。
「棚からぼた餅」が大好きな自分にとっては耳の痛い言葉だが、確かに、そういう一面が人間にはあって、「アトピーを治す」と言う点でもこの「ラクな方へ」がマイナスに作用している気もする。
ただ一つだけハッキリしていることがあって、それはアトピーと言う病気が頑張れば頑張った分だけ治癒率も上がる点で、この点だけはすこぶるフェアな疾患だとも思う。
私のように身動きが取れないほど重症化した場合以外なら、長期休暇を取ってわざわざ入院しなくても、日々の生活習慣を見直す中で「当たり前のことを当たり前にキチン」と継続することで確実に完治まで到達できる疾患とも言える。
焦らない。イライラしない。怒らない。
このことを念頭に、やるべきことを淡々とやる。良いことにも悪いことにも粛々と対応してゆくことが大事で、逆に何かに怯えたようなビクビクした心が起きたら、たちまちアトピーの餌食になってしまう。
アトピーと言う病気はじっと観察されるのが嫌らしく、逆にオドオドした患者をイジメるのが大好きらしい。だからこの病気と向き合う時は常に自分が観察する側に回り、アトピーに自分を観察させる隙を与えない。この戦法で戦うのが一番効果的だろう。
諸行無常、生々流転。
「アトピー性皮膚炎は遺伝」「遺伝を治せない以上アトピーは治せない」。そんな風に言われていた時代は終わった。それはもう過去の話となった。
何か特別な治療をしないと治らないようなイメージも全部虚構。
アトピーを治すための特別な治療やモノなんて最初から無かったのだ。そんなものは全然必要ない。その代わり、本当に必要なのは患者自身の「自分で治す」と言う意志だけ。
アトピーとの戦いは、自分自身との戦いなのだろう。